岸本佐知子・編訳『変愛小説集』

 バイト中、あまりに人が来ないので読み終えてしまいました。いくつかは雑誌掲載時に読んでいたのですが、単行本化に当たって再読。感想と星は個人的なものなので、参考になるかは分かりませぬ。奇想話って好みがあるから。

  • アリ・スミス「五月」☆☆☆★

 隣人の庭に生えている木に恋をしてしまった人物と、その配偶者のおはなし。このような書き方をしたのは、作中で二人の性別が明かされていないから。
 木への愛をとうとうと語るAパートも良いが、それを見守る配偶者の語りで進むBパートもなかなか。

  • レイ・ヴクサヴィッチ「僕らが天王星に着くころ」☆☆☆☆

 全身の皮膚が宇宙服に変わり、最後には宇宙へ飛んでいってしまうという病に冒された恋人同士を描いている。
 実は以前に京都大学SF研究会の会誌「中間子 地獄編-ドキッ!レイ・ヴクサヴィッチだらけの超訳祭り」で読了済み。いま手元に無いのだが、たしかその時のタイトルは「天王星に着くまでに」だった。
 原書はケリー・リンク主催のSmall Beer Pressから出版されてるようで、なるほどリンクに近いセンス。なんだかセンチな気分にさせられる。

  • レイ・ヴクサヴィッチ「セーター」☆☆☆

 彼女の手編みセーターを着ようとするが、そのセーターの中で迷ってしまう。なんとか着ることに成功する彼氏だが、今度は彼女の方が……
 あらすじ書いてて頭がクラクラした。そのオチは予想できなかった。

  • ジュリア・スラヴィン「まる呑み」☆☆☆☆★

 人妻と芝刈りに来た青年は恋をしてしまい、キスをした際に青年を呑み込んでしまう。仕方なくお腹の中で暮らさせることにするが、その生活は大変。
 アホすぐるぜ。ていうかお前、オネイニーのことしか考えてないのかよ!

  • ジェームズ・ソルター「最後の夜」☆☆★

 病により安楽死を選択した妻とその夫、妻の友人である女性の3人の夜。
 そこまで「変」ではない上、読んでる途中も読後もなんだかイマイチ。作者の略歴の方がよっぽど面白い。というより岸本さんの文章か。

 陸軍士官学校を卒業後、戦闘機パイロットとして朝鮮戦争で百回以上の実戦を戦ったのち、空軍を辞して作家になった。
 (中略)
 極限まで削ぎ落としたような超低温の文体と、チョコレートでいえばカカオ九九%ぐらいの激苦な読後感は、ちょっと他に似た人を知らない。

 これなんてエロゲ
 いやタイトルのまんまです。これ以上は野暮なので何も言わない。母親萌えは外国にも存在するのか……!

  • A・M・ホームズ「リアル・ドール」☆☆☆☆☆

 これは要するにKawaii! BaRbie」ですね。わかります。
 妹のバービー人形(喋る)と兄の恋愛話。兄の変態っぷりと、バービーさんのビッチっぷりが笑える。

  • モーリーン・F・マクヒュー「獣」☆☆

 父と娘が体育館でみた生物はなんだったのか。短いが不思議な物語。
 マクヒューは短編「リンカン・トレイン」で1996年ヒューゴー賞短編小説部門を受賞している作家。この作品は「野生時代」07/11月号に掲載されて私も読んだが、え、コレなにが面白いの? と、思ったら直木賞受賞作家が日記で
「昔、なんの予備知識もなく、鼻歌交じりにJ・ティプトリー・ジュニアを読んじゃったときに似た、大爆撃」
とかベタ褒めしてて、ぎゃあオレ涙目。でも某翻訳家の方がmixi日記でけなしまくっていたので安堵した。
 あ、「獣」もようわかりませんでした。

 別れた女が乗っている(と思っている)飛行船を、その元カレがひたすら車で追いかける話。
 これ小説としてあんまり上手くいってなくね? 小ネタがそこここらに散りばめられているのだけど、どうもシックリ来ない。最後でドンデン返しでもあるのかと思いきや、ポカーンなオチでした。

 陶芸家の女性と、その叔母が牛骨灰をめぐって大騒動! ごめんなさい、全然違います。
 よく纏まっていて小説としての完成度は高いが、どうにもありきたりすぎて今ひとつ。

 戦争で女しかいなくなった島に、他国の軍人が上陸して女達とねんごろになる。彼らが去ったあと、女達は子供を身ごもり出産する。そしてその数年後、ひとりの男性が漂着する。
 バドニッツは安定して「変」だ。ざらざらとした読後感が逆に心地よい。著者の短編集『空中スキップ』もオススメ。


 こういう海外奇想短編集はもっと出版されて欲しい。サクッと読めるので、変な話が大好きな人は読むといい。
 しかし、この本の装画がいったい何を描いてるのか、読み終わってもさっぱりですよ。

変愛小説集

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