大森望・日下三蔵編『超弦領域 年刊日本SF傑作選』(創元SF文庫)

超弦領域 年刊日本SF傑作選 (創元SF文庫)

超弦領域 年刊日本SF傑作選 (創元SF文庫)

2008年の日本SF短編の傑作選。2007年版の『虚構機関』も傑作ばかりだったが、今年はそれに輪をかけて粒選りでした。以下各作品感想。評価点はこちらの考課表に準拠。

「ノックスの十戒」をテーマとした時間SF。雑誌掲載時から評判の高い作品だったが、正直そこまで褒めそやされる理由が分からない。数理文学解析というアイデアや綺麗なオチには好感持てる。

  • 林巧「エイミーの敗北」 0

世界の管理者である集合的無意識・エイミーが別の世界からやってきた男と対決。そして敗北。普通。林巧のエッセイなんかはファンなんですが。

フランケンシュタインの怪物が現代に登場し、随所にメアリ・シェリーのエピソードが挿入される。幻想成分高め。良い。

河川争奪を下敷きにし、そこへ時間SFを当てはめるとこんな大傑作が生まれるとは。後半のホラー的描写や宗教ネタ含め、全てが好み。

第二次大戦において、兵役の替玉をおこなった男が歩む奇妙な人生。SFかどうかと問われると怪しいところだが、小説読みとしてはこの掌編に出会う事ができて喜ばしい。

意思のある胡蝶蘭とそれを育てる女の、純文学的な幻想小説ジョジョ4部のストレイ・キャットを思い浮かべたのはオレだけじゃないはず。

日記。嘘と現実の境界がひどく曖昧で、それが淡々と描かれているので妙に愉快。

  • 石川美南「眠り課」 0

短歌。飄々として面白いとは思うのだけど、点数を付けるほどじゃないなあ。

エッセイ。『星新一 一〇〇一話をつくった人』に収録できなかった、新一が幼少期に通っていた絵画教室の先生と異母兄弟だったのではないか、と取材する話。星家の謎は深まるばかりだ。

  • Boichi「全てはマグロのためだった」 +1

マンガ。マグロが地球上から絶滅してしまった未来で、マグロの復活に全人生を賭けたある科学者の人生。本来の研究はさっぱり成功しないが、失敗が別の結果をもたらしたりで、最後にそのあたりが繋がる展開が素晴らしい。著者の傑作選収録に対するコメントがまた良い。

山田風太郎の『忍法剣士伝』を現代の秋葉原に置き換える、という作者ならではの爆笑短編。倉田英之のいちいち元ネタのあるギャグを飛ばす文章にはちと辟易したが、その道の強者12人(ガノタ、フィギュアオタ、抱き枕オタなどなど)が登場してからはニヤニヤしながら読んだ。12人中2人しか話には絡んでこないのに、全員分のキャラデザをするヤスヒロNightow先生は、さすが星雲賞作家ですなw

  • 堀晃「笑う闇」 +1

ロボットと人間の漫才は可能か? 事の顛末を、劇場の支配人と漫才師の二人が横町の飲み屋で思い出しながら語る、という物語の進め方が良い味を出している。

そもそも小川一水の作品はあまり合わないのだが、この作品はちょっとどうにもならんな。去年の「グラスハートが割れないように」よりは上だが。

あんまり分からない分からない言ってると作者に失礼な気もするが、全く分からないのだから仕方がない。分からないなりに面白く読めるところが円城塔の凄さでもあるのだが。

007をモチーフにし、『ハーモニー』と同じように「意識」の問題へ……。凄い。
ちなみにこの作品の大枠である、本人によるマンガ「女王陛下の所有物(On Her Majesty Secret Property)」がpdfで公開されているので、是非読んでいただきたい。
http://www.geocities.jp/project_itoh/

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「From the〜」から「アキバ忍法帖」まで、かなり幅広い作品が収録されていて、読み応えは充分でありました。来年も期待。
ところで「アキバ忍法帖」のリメイク元である山田風太郎忍法剣士伝』は、『喰いしん坊!』『極道めし』でお馴染み、我らが土山しげる先生がコミカライズされているので、気になった方はこちらも併せて読んでみてはいかがだろう。

忍法剣士伝 1 (SPコミックス)

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